夏の日が過ぎた頃
【第6章】あの日の記憶
【第6章】
そこにはいつものように、歌を歌う先輩がいた。廊下にまで響いている、いつにも増して声が大きい。

ドアを開け、僕は、歌を遮って、その場から

「なんで?」
と一言聞いた。普通に聞いたはずなのに、声が震えた。

先輩は歌を止めて、こちらを見た。と思う。そして、
「ごめんね。」
と言って、静かに後を続けた。

「これ、さ、実はこれまでここで歌ってたやつ。録音してたんだ。よかったら、もらってくれないかな?」

負けな気がした。終わってしまう気がした。
受け取りたくなかった。薄々気づいてはいたのだ。もう、前とは違うことに。

「嫌です。受け取りません。」

まだ、僕が話しているのに、先輩があの時みたいに、僕の手を持ち上げ、手の上にCDを乗せてきた。

…がしゃん!!!
思わず、先輩の手を振り払ってしまった。


「もう行かなくちゃ…。」

「なんで、僕な「私にはもう、それ、意味ないから。君にとって写真が無意味なようにね。」

「僕にとって写真は無意味なんかじゃない!未来なんてわからないじゃないですか!今、価値がないなんて決めつけるのは、早すぎるんじゃないですか?」


「…」

3秒程度の沈黙。長く感じた。そして、
「じゃあ、さようなら。」
先輩は去ってしまった。もう戻って来ることなどなかったのだ。

聞くところによると、先輩、彼女は、その後も学校にはいたらしい。まぁ、歌声のない彼女の存在を僕には、確認するすべもなかったのだが。

そんなこんなで、彼女あの日当たってしまったことを謝ることも、結局彼女は最後まで聞こえていたのかも確認することもできず、卒業してしまった。
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