夏の日が過ぎた頃
【第7章】ふと目覚めて
【第7章】
お客さん〜閉店ですよ〜という、先ほどのバイトとは違うマスター(多分)の声で、ハッと目がさめる。

店には僕だけが残されていた。

外は薄暗く、古びた時計の針は17:49を指している。

まだ、カウンターにいた先ほどのバイトの子が、じろりと視線で本が進んでないことを指摘して来る。「しょうがないだろ、初めて本読むんだよ」の意を込めて口角を上げ、笑いかける。

手を挙げ、「会計。」と短く言うと、
マスターが、
先ほど、あちらの席に座られていた女の方が払われましたよ。と言った。それとメモを預かったと言って、「今の君には価値が、意味があるんだ。よかった。」と書かれた紙ナプキンを渡してきた。

なんだか、もどかしい気持ちになって、本の表紙に目を落とす。…なんの変哲も無い挿絵の茶色い時計のイラストだが、綺麗だと思った。

「ありがとうございました。」

店をでると、すっかり日は暮れて、あたりは風が少し肌寒い温度になっていた。



あの時の僕には、恋なんて、そんな感情なかったのかもしれない。なんて、詩を浮かべつつ、家へと向かった。
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