重なるてのひら ~ふれあう思い~
「初めまして、伊藤千尋の母です。」

「担任の石井和也です。
どうぞ………お座り下さい。」

今日は、私の想像を裏切って………

お姉ちゃんではなくて、母親が来た。

教室の前で待っていたら

「千尋。」と小声で話しかけてきてびっくりした。

直ぐに、先生にメールを送ったけど……面談中だから見てないと思う。

前の詩織がお母さんと出てきて、母親同士会釈したから

もう直ぐ呼ばれるはず。

『せめて、入る前にメールに気づいて!!』…………って願いも空しく

「次の人、どうぞ」という、入室を促す声が聞こえた。

……………………先生、ごめん。

ガラッとドアを開けると…………

ピシッと固まる先生。

………………やっぱり見てないよね。

それでも大人の先生は、母親を前に堂々と挨拶した。

「こちらが、伊藤さんの成績です。
見てお分かりのように、成績はとても優秀です。人望もあり
今はクラス委員もお願いしています。
クラブ活動も積極的で、副部長も任されています。
学業、その他の内申も問題がないので………
今の成績を維持すれば、ウチの大学は楽に入学出来ます。
ただ先日、伊藤さんに伺ったところ……
外部の大学も視野に入れているということでしたので………」

「えっ!千尋、ここの大学に行かないの??
……まぁ、ウチは……上の子も外部の大学で
幼稚園の先生を目指しているから、ここにこだわらなくてもいいと
思ってます。
将来、自分がしたいことの役に立つ大学を見つけてくれたら。
ウチは両親共働きで、中々時間が取れないこともあるので……
先生、この子の相談にのってやって下さい。
千尋、唯や先生の言うことをしっかり聞いて……頑張ってね。
すみません、これから北海道に出張で…………
先生、よろしくお願いいたします。」というと……

「あの。」と呼び止める先生に一礼して、教室を後にした。

「先生、ごめんなさい。
いつもあれだから、話しにならないの。
お姉ちゃん連れてくるね。」

分かっていたことなのに…………

珍しく………本当に珍しく母親が私のことに、関心を持ったから

ちょっと期待してしまったの。

ポタポタ落ちる涙。

先生を困らせるだけだから……泣いたらダメだって思うのに。

次の人だって、もうきて待ってるはず。

母親が先に帰って、私が泣いていたら………先生に迷惑がかかる。

もう一度「ごめんなさい。」と謝って立ち上がる私に

頭を撫でながら耳元で

「今日はお母さん、泊まりでしょう?
樹のマンションで待ってて。」と囁いた。

………………先生。

『今日は一人になりたくない』って思ったこと………伝わったのかな?
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