独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「へえ、兄貴が見たら惚れ直すんじゃない? よく似合ってる。さすがだな」
姉と似たような褒め言葉をもらい、私は小さくお礼を言う。

「大輝さんも素敵です」
「ありがとう。とりあえず今日は兄貴の婚約者を俺がエスコートするってことになってるから」
大輝さんはさらりととんでもないことを口にする。

「ええっ!? 聞いてない!」
吃驚の声をあげる私を、彼は可笑しそうに見る。

「うん、今、初めて言ったからね。まあ、誰かに直接尋ねられたらそう答えるって程度だけど」
当たり前のように言う大輝さん。

「何を言ってるの! 私は煌生さんの婚約者だと世間に知られていないし、お披露目だってされていないの。だから大輝さんがエスコートをする必要はないでしょ!」
内心の動揺が表に出てしまったせいか、意味のわからない言葉を口にしてしまう。

「だから略式のお披露目だって、橙花さんの。兄貴の婚約者として」
ご丁寧に説明口調で私に教えてくれる。

「ひ、必要ないから! 私は今日はあくまでも裏方として……!」
必死で訴える私。背中に冷たい汗が一筋流れる。

「そんなこと、ひと言も言ってないけど? そもそもそんなつもりだったら、兄貴も俺も橙花さんにそんな格好をしてもらうわけがないだろ? 橙花さんはこういうことが苦手だって知っているのに」
ニッコリと兄そっくりの含み笑いを私に向ける弟。その台詞に言葉がでない。

確かにおかしいと思ったけど……! でもこんなパーティーなんて出席したことはないし、裏方でもマナーとしてこういう装いが必要なのかと思っただけなのに……!
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