独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「お前の幸せな報告は一年に何回も聞いてるから。不幸せな報告もな。あ、でも付き合うかどうかで悩むっていうのは珍しいな」
姉そっくりの大きな目に、羨ましいくらい長い睫毛をもつ兄が憎まれ口を叩く。

長めの前髪のコンパクトマッシュの髪は無造作に見えて、きちんと手入れされている。営業職はそんな髪型で大丈夫なのか、とたまに首を傾げてしまう。

このふたりは双子で私の四つ歳上の兄と姉だ。ふたりとも人目を惹く容姿のせいか、異性にはやたらとモテる。そのうえ人あしらいもうまいものだから、付き合う相手に事欠かない。

兄、蒼介なんて本命の彼女が誰なのか、常によくわからない。いつも彼の周囲には複数の「特別な」女性がいる。
姉はまだその辺はしっかりしているようで、彼氏がいる間には浮気はしない主義らしいけれど、何せその交際期間が短い。

そんなふたりを幼い頃から見てきたせいで、私は異性に対する憧れや夢がかなり半減してる。恋愛に夢を抱かない。そんな現実的でないものなんて信じない。
むしろひとりで生きていきたい。自分と仕事は裏切らない。誰かに頼ったり甘えたりすることなく、生きていけるスキルを身に付けたいと常々思っている。

そもそも「恋」とは「恋愛」とはなんなのだろうか。どうしてそんなに兄も姉も、すぐに飽きるくせに恋愛に一生懸命になるのかわからない。自分以外の誰かに惹かれ、胸がいっぱいになる気持ちなんて理解できない。

誰かを想って胸が痛くなるってどういうことだろう。二十六年間、そういう意味で好きになった人なんてひとりもいない。恋なんて私はこの先きっと経験しないのだろう。でもそれならそれで構わない。今の生活に不満があるわけじゃない。

「もうっ、橙花ちゃん、聞いてる? 蒼がヒドイッ!」
右横から姉が私の腕を引っ張る。

「ハイハイ」
適当に相槌を打ちながら、サラダのトマトをつつく私。

「橙花、聞かなくていいぞ。どうせ今回も長続きしないから」
兄が向かい側から私を見つめて言う。

「ふたりともいい加減にしなさいっ」
カウンターキッチンの中から母が兄と姉を諫める。これが我が家の平和な日常だ。
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