独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
私の名前は都筑 橙花(つづき とうか)、中堅不動産会社である穂積不動産株式会社の総務部に勤務する二十六歳、独身だ。

真っ直ぐな肩までの黒髪はくせが付きにくく、姉のように綺麗な巻き髪にはならない。
百六十センチメートルちょうどくらいの身長に平均的な体重。
面長の輪郭に二重の目はかろうじて兄や姉に似ていると言えなくもないが、ふたりほど魅力的に輝いてはいない。

私たち家族は東京郊外の駅から十分ほどの距離にある、古い一戸建てに住んでいる。元々この場所は父の地元であり、祖母が亡くなった時に長男の父が相続し、建て替えたと聞いた。

姉は大手化粧品会社に、兄は大手飲料メーカーに勤務している。どこまでも要領のよいふたりは就職活動も完璧に早々に終わらせていた。何も知らなかった当時の私は就職活動というものは、世間で騒がれるほど大変なものではないのかと勘違いしてしまうくらいに。

父は都内の大学事務局に勤務し、母は専業主婦というごく普通の家庭で育ってきた。ただ、破天荒というか自由気ままな兄と姉を間近で見て育ってきたせいか、堅実に生きていかなければいけないと無意識に思ってきた。

姉のように可愛らしく守ってあげたくなるような女性になることもできず、兄のようにいい加減なくせに人を惹き付ける魅力もない。
どうして姉のように可憐に笑えないのだろう。どうして兄のように上手く立ち回れないのだろうと何度も思った。兄や姉のようになりたいと憧れて願った。成長していくにつれて、それが叶わぬ願いだと知った。

念のために言うが、兄と姉はこれまで私を苛めることも、けなしたり、貶めることもしたことはない。むしろ溺愛に近いくらいにかまって、可愛がってくれている。

特に兄は少々私に過保護気味だ。『妹が一番可愛い』と事あるごとに言う兄と姉の身内びいきはすごい。私に言わせると、同じ血を分けた家族にもかかわらず、顔立ちも性格も兄と姉には似ていないのだけれど。
周囲の人たちにもそう言われて育ってきた。そしてそのことが、いつも心の奥底で燻っていた。
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