独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
4.交換条件
人生において初めてのキスを思いがけず経験した翌日は、土曜日だった。そのことがせめてもの幸いだった。

私の勤務形態は基本的にカレンダー通りになっている。営業部やほかの部署はそうでない場合が多い。もちろん私も休日に出勤をすることは往々にある。

昨夜は夜遅くまで寝付けなかった。頭の中を一日の目まぐるしい出来事が駆け巡っていた。

朝とは違う装いと仏頂面で帰宅した私の豹変ぶりに母は驚いていたけれど、特に何も言われなかった。私の様子に何かを察してくれたのか、娘の心の機微に鋭い母に今回ばかりは感謝している。姉は幸いにも入浴中で、兄は接待で不在だったので下手に追及されずにすんだ。

自室についてずるずるとベッドにもたれて、床に座りこんだ私はそのままうとうと眠ってしまったようだった。
目覚めると真夜中になっていて重たい身体を引きずって飾り立てられた化粧を落とし髪をほどき、お風呂に入った。湯船につかって頰から零れ落ちた雫はただの汗だと信じたい。

髪を乾かすのさえ億劫で適当にやり過ごし、そのままベッドにもぐりこんだら今度は目が冴えてしまっていた。眠りにつけたのは早朝に近い時間帯だったのは記憶している。

こんな自堕落な生活はほとんどしたことがない。まったくあの副社長に出会ってから私らしくないことばかりだ。

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