独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「そのデートで教えられたから急いで帰ってきたの! お母さんはお父さんと買い物に出かけてるわよ! 大体、このこと蒼は知っているの⁉」
険しい表情でずいっと私に顔を近付ける。姉の高価な香水と化粧品の香りがふわりと漂う。

姉は手を伸ばして、勢いよくベッドサイドのカーテンと窓を開けた。眩しい光が部屋中に射し込む。新鮮な空気が一気に入り込む。

「まさか、デートをすっぽかしたの?」
恐る恐る尋ねる。彼氏が気の毒で仕方ない。
「そんなわけないでしょ。デートは後日仕切り直しにしてもらったの。橙花ちゃんの一大事に呑気にデートなんてできるわけないでしょ‼ ほら、白状しなさい‼」

姉に詰め寄られた私は観念して、これまでの彼との出来事を話した。起きたてで顔すら洗っていない状況で話すことではない気がするけれど。
そもそも姉はどうして私の代理婚約を知ったのだろう。

「なんなの、その契約! 信じられない。そんなことありえないでしょ。なんでそんな意味の分からない安請け合いをしたのよ‼」
姉が凄い剣幕で私に迫る。

ちなみにキスされたことは話していない。そこまで話すともう姉は聞く耳を持たなさそうだ。すぐさま兄に報告してしまうだろう。

「即刻、解除してもらいなさい! できないなら私が話をつけてくるわ! 蒼も呼び出すから!」
今すぐにも飛び出していきそうな姉を、必死で抑える。姉の心配はとても嬉しいが私の話も聞いてほしい。

「ち、ちょっと待って‼」
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