独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
姉は確かに今まで何人かの人と付き合ったことがあるとはいえ、兄のように同時に複数と付き合っていたわけじゃない。
しかも今回は運命の恋だとあんなに嬉しそうに話していた。何よりも今、ふたりが一緒にいる様子はとても穏やかで幸せそうだ。だったらふたりの仲を応援してあげたい。

「それで婚約者の橙花さんに兄を説得してもらいたいんだよ」
至極明るく彼が言う。

「ええっむ、無理‼ ふたりの応援はしたいけれど、あの人が私の話を聞くとは思えない!」
いきなり話を振られ、慌てて断る私。

「大丈夫だって。その代わり代理婚約の件は黙ってるし、協力するから」
なんでこの人、こんなに簡単に言うの⁉

「大輝くん、橙花ちゃんを困らせないでよ。私は大輝くんのご家族に認めてもらえたら嬉しいけど、それで橙花ちゃんに辛い思いをさせるのは嫌だから」
姉が私を見ながらキッパリと言い放つ。その顔は普段のおっとりした姉からは考えられないくらい厳しいものだった。

「そんなつもりはないんだけどね」
困ったように彼は笑って、姉の肩を抱いた。姉はいつもの可愛らしい微笑みを浮かべて彼を見つめ返す。なんだかんだ言っても仲が良いふたりの姿はとても羨ましかった。あんな風に想いあえたらいいのに。

ちょっと待って、私、今何を考えたの。想いあえたらって誰と?

自分の考えに狼狽える。その時、スカートのポケットに入れておいた私のスマートフォンが着信を知らせた。液晶画面に表示された名前は柿元さんのものだった。
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