独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
ドキンと鼓動が一気に速まる。
まさかあの人に何かあったんだろうか。ふたりに断ってから電話に出る。

「都筑です」
できるだけ落ち着いた声を出す。

『柿元です。こんにちは、休日に突然お電話してしまい申し訳ありません。今、お電話よろしいですか?』
いつもと同じ柿元さんの声になぜかホッする。

「はい、大丈夫です」
『昨日はありがとうございました』
ニコニコ微笑む姿が頭に浮かびそうなくらい穏やかな柿元さんの声。

「いえ、あの、勝手にご挨拶もせず帰宅してしまい、申し訳ありません」
苦しまぎれに謝罪する私。できることなら昨日のことは思い出したくない。

『いえ、どうか気になさらないでください。お疲れのところ大変申し訳ないのですが、本日副社長のご自宅までご足労願えませんか?』
突然の言葉に瞬きを繰り返す。

「え、今日、自宅にって副社長に会うってことですか?」
しどろもどろになって聞き返す私。
なんでまた今日、あの人に会うことになるの。

『詳細はお迎えに上がった時にご説明しますから。一時間後ほどに参ります』
「え、ちょ、ちょっと柿元さん! 待ってください!」

私の返事も聞かずに柿元さんは一方的に通話を切ってしまう。その様子を見ていた大輝さんが私に話しかける。

「今の電話、柿元から?」
頷く私。

「副社長の自宅に来てくださいって。今から一時間後に迎えに来ると言われました」
簡潔に返事をする。

「あら、じゃあ副社長とデート?」
姉が楽しそうに尋ねる。
「ち、違うよ!」
慌てて否定する私。

頰が熱い。鼓動が暴れだす。昨日の今日であの人にどんな顔をして会えばいいのかわからないし、呼び出してくる理由もわからない。そもそも私は怒っているのに。
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