独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「ふうん。ちょうどいい、俺が橙花さんを送っていくよ」
口角を上げて彼が微笑む。何か企んでるとしか思えない。

「なんで⁉ お姉ちゃんとデートは⁉」
素っ頓狂な声を上げる私に、彼は悠然と言う。
「もちろん紫さんも連れて行くよ。俺らは兄貴には会わないけど、俺が橙花さんを送ったってわかったら多分面白い反応をするだろうから」

「ああ、嫉妬させるってことね!」
姉が嬉しそうに言う。
「嫉妬って何それ⁉ そもそもあの人が私に嫉妬心を抱くわけないから! 無駄に不機嫌になるだけだからやめて」

この似た者ふたりが考えることがよくわからない。どうして副社長が私に恋をしていることになるの。そんなのありえない。

「あら、それを確認するためでもいいんじゃない? 橙花ちゃんの恋が進展するといいわね!」
「進展しないから! そもそも恋じゃないの! 代理婚約者だってば!」
必死で否定する私を、姉は可愛く小首を傾げていなす。

「じゃあ頑張ってね」
まったく話を聞いてくれない。

「紫さんとのこと、説得頼むな。柿元には後で連絡しておくから。ああ、それから兄貴は俺の知る限り自宅に女を入れたことはないから。橙花さんは自信をもって」
兄によく似た笑顔で私に言う弟。

その言葉が何を意味するのか確認できずに、俯く私。高鳴る鼓動がやけにうるさかった。

そしてあれよあれよという間に外出準備をさせられ、彼の車の後部座席に乗せられた。厳しい残暑の光に照らされて輝く紺色の四駆は有名な高級外車だった。

しかもそれが嫌味じゃない。こういうところでさえ、立場というか住む世界が違うと思い知らされる。姉はよく平気だなとつくづく思う。

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