隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
美樹にそう聞かれたのは、二人でバーにいった日から三日たった昼休みのことだ。

「買ってないよ」
「拗ねてるんだ?」
「違う」

理由はちゃんとある。まず、五十嵐さんは自分の誕生日について、結局触れなかった。だから今更話題にしにくい。そして、サプライズでお祝いするにしても、私が高い物をかっても喜ばない。でも、安物を買いたくない。

お店で五十嵐さんにプレゼントを渡そうとしていた女の人は、身に着けているものがどれもお洒落で、魅力的な人だった。何を渡したのか分からないけれど、きっとプレゼントのセンスもいいだろう。私の小遣いで買えるものでは太刀打ちなんかできない。

「やっぱり拗ねてる。ちがうか、あの女の人への対抗心だ」
「対抗心か……」

その通りだ。しかも、かなわないから最初から勝負をしないなんて、私は負け犬。

「いいじゃん。ケーキでも買ってさ、プレゼントは私! で」
「なんだそれ」
「恥じらいを捨てなさい。鍵もらってるんでしょう? 今日は金曜日だよ。莉々子は明日暇なんだし、素直に部屋で待っていればいいんじゃないの。一人でもやもやしてても無意味だよ。会って素直に甘えてきなって」
「うーん……」
「莉々子は五十嵐さんに鍵を預けてないんでしょう? 会いたかったら自分で動くしかないんだよ」
「そうだけど」

五十嵐さんは私に部屋の鍵を預けてくれたけど、その時渡そうとした、私の部屋の鍵は頑なに受け取らなかった。私の親に対してのけじめらしい。
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