隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「おはようございます……五十嵐さん? 起きてますか?」

声をかけながら、そっと部屋に入っていくとベッドの布団に埋もれた五十嵐さんが、顔だけ出している。

「おはよう」

ベッドの横までドキドキしながら近づいてみる。まだ眠そうな五十嵐さんにできればおはようのキスをしたい。自分からちゃんとできるだろうか。

勇気を振り絞って顔を寄せようとしたその時に、五十嵐さんがばっと起き上がった。

「あれ、莉々子ちゃんいつもと雰囲気ちがう?」

とても驚いたように、目をぱちくりさせている。

「秋だし、ちょっと大人っぽく」

季節のせいだと言い訳したが、大人っぽい服を着たかったのは、本当はバーで出会った女の人を意識してしまったせいだ。
彼と一緒に並んで歩いた時に、周囲からちゃんと恋人だと思われたい。
 
 
「それに、なんか香りがする」
「香水です。……美樹からフランスのお土産でもらって、ブランドの」
「? ずいぶん奮発してくれたんだね」
「美樹のお兄さんが出してくれたみたいです」
「へえ、お兄さんとも仲いいの?」
「二回くらい顔を合わせたことはありますけど、理由があって……その」

なぜ、お土産代を美樹のお兄さんが出してくれたのか。それを五十嵐さんに説明することができず、口ごもる。

「……合わない」
「えっ?」
「その香り、莉々子ちゃんに合わないよ。俺はこの匂い好きじゃない」

聞き間違えかと思った。そうじゃないと頭が追い付くと、急に五十嵐さんが違う人に見えてしまう。
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