隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「ごめんなさい。もうちょっと待ってください、……今は無理、まだ支度できてなくて」
『分かってるから。頼むから謝らせて。釈明させてほしい』
「今は無理です……」
『自分のせいで泣いてる恋人をほっとけない』
「でも」
『君がドアを開けてくれるまで、大人しく待っていられるほど辛抱強くもないし、君に無関心でもないから』

五十嵐さんはずるい。ほんとにずるい。ここまで言われて鍵を開けなかったら、私はただの愚か者だ。
もう服なんて何でもいいやと、衣装ケースの一番手前にあったニットとスキニージーンズを履いて、急いで玄関に向かった。

私が鍵を回すとすぐに、勢いよく扉が開く。
大きな身体の五十嵐さんが、滑り込んできて、迷わず私を抱きしめた。
 
「莉々子ちゃん」
「……いがらしさんっ」

彼の胸に顔を埋めてしまえば、変な顔を見られないから、私は大人しく彼の腕のなかに閉じ込められた。

「ごめん。嫉妬した。他の男がちょっとでも関わっている香りなんて嗅ぎたくないって。……ああ、カッコ悪い。自分がこんなに嫉妬深いなんて知らなかった」
「……だったら、私のせい」

謝るのは私の方だ。美樹からお土産をもらう時に、「いいのかな?」と何か後ろめたい気持ちがあったのは確かだ。五十嵐さんは気にしたりしないって、そう思い込んでいたのは甘えだった。

「そうだね、君のせいだ」

五十嵐さんはそう言って、私を腕の囲いから解放する。
そのまま少し屈んできたから、顔と顔が近くなる。言葉とは裏腹に、今までで一番優しくて甘い顔で微笑んでいた。私は自分が今、泣いたあとのひどい顔をしているのも忘れて、呆けたように彼を見つめる。

「莉々子ちゃんは我慢してくれるのに、年上の俺は少しも許せないなんて、どうかしてるだろう。きっと、君のせいだ」
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