隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
翌朝、彼女の隣で不潔なままでいたくない意識が働いたのか、わりとはやく目が覚めた。こっそり風呂に入り、簡単な朝食を作ったところで彼女を起こす。

「莉々子ちゃん、起きる? 朝だよ」
「ん? もう朝?」
「朝食できたから」

布団から顔を出した彼女は、目を擦りながら鼻を働かせている。

「いいにおい」

部屋の中にはコーヒーとトーストの香りが広がっていた。

「今日こそ私が先に起きて、朝ごはんつくろうと思ったのにな。私、甘えすぎていてだめになる」

彼女は不満そうだけど、俺はそれでいい。もっと俺の前でだけは、油断して隙をつくって欲しいから。

「わるい……俺、好きな女はでろでろに甘やかしたい人間だから、黙って甘えてくれる?」 

布団の中の恋人は、なぜか枕に顔を埋めてころがりはじめる。
何か変なことを言っただろうか? それとも腹でも痛いのか。
覗き込むと、林檎ちゃんは嬉しそうに満面の笑みを向けてきた。

「……好きって、私のこと。ちゃんと言われたのはじめて。いつもかわいって言ってくれるけど、好きと言ってくれたことはなかった」

確かに、こっぱずかしいからちゃんと言ったことはなかった気はする。でもそれ以外の方法で十分伝わってると思っていた。言葉にしたほうがいいこともあるのか。

「好きだよ」

彼女の手を握って、指先にキスをした。頬が真っ赤に染まっている。

「莉々子は? 君からしたら、俺なんかおっさんだけど」
「好き。大好き。ねぇ、新さんはいつ私のこと好きになってくれたの?」
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