大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

『奏は健さんじゃないもんね』

菜生は、ちゃんとわかっているんだ…
今は健と俺を重ねて見ていない事に頬が緩む。

『もう、奏の代わりに他の誰かを代わりにもしないから心配する必要なくなるでしょう』

俺には都合よく『もう、俺以外の男に抱かれないから心配しないで』と言っている気がしてならない。

『これで私に会う理由はなくなったし、今まで通りの生活を楽しんでください…今まで、あ、り、が、と、う。さよなら、奏のバーカ』

俺以外いないから…
私だけを見て…
さよならなんてしたくない…

彼女が言い残した言葉は、都合よく全て逆に聞こえてしまう。

最後の『奏のバーカ』は心に響いた。

ほんと、俺ってバカだ。

菜生の何を見ていたのだろう⁈

始まりは健の代わりに俺に抱かれただけだったかもしれない。でもそれから何度も抱いたが、彼女は俺をあいつの代わりにする事はなかった。

俺が、『抱きたい』と誘えば、つれない態度でも受け入れてくれてた。

その、つれない態度は彼女の照れ隠しで、時たま、甘える仕草や表情を見せてくれていたのは気を許してくれてた証拠で、体から始まった関係に、彼女は素直になれないでいただけだと、今更気がついたなんてバカ過ぎて笑える。

曖昧だった関係をはっきりさせる為に、俺は彼女を追いかけた。
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