大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

私はア然と固まる男の唇をめがけてキスをした。

「…」

驚きで呆気にとられている奏の表情に満足する。

それなのに、恋愛に一枚も二枚も上手な男は、唇から離れた私の腰を囲うように腕で掴み距離を縮めて意地悪く笑う。

「可愛くねーな…こんなお前、俺以外の男が彼氏だったら、ソッコー振られてるぞ」

「フンだ、ご心配なく、そんな私を好きだって言ってくれる人と付き合うから振られないもん」

ベーと舌を出して憎まれ口を言う私に、奏は声を出して笑った後、1人納得したように頷いた。

「あー、なるほどね。確かに言ってないわな」

「何がなるほどねよ。離して…私はアパートに帰るんだから」

雲行きがあやしくなる気配に、咄嗟に出た言葉に奏の表情は険しくなる。

「はあっ、お前空気読め」

「空気読んだから帰るの」

「この状態でバカか?」

「バカじゃない。奏の方こそ人の気持ちもわからないバカじゃん」

「チッ、あぁ、そうだよ。今気がついたんだから仕方ないだろう!」

バカだって今、気がついたの?た表情に出ていたらしい私のおでこに軽く頭突きが落ち、そのまま額を擦り合わせ見つめてくる目にドキドキさせられる。
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