大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「…帰ってほしくない?」
「当たり前だ。一緒に居たくないのかよ?」
不安そうな声に思わず笑いが込み上げて、奏の心の内を引き出したくなる。
「奏は?私と一緒に居たい?」
「だから、引っ越して来いって言ってる」
「同居なら、家賃とか光熱費、食費も折半で出すって条件なら考えてもいいよ」
「このフロアー全部俺ん家の物。各扉の向こうに親と、兄貴夫婦が住んでる。だから、家賃もない。光熱費も食費も折半なんてさせない。お前は、お前の言う必要な物と身一つで来ればいいんだよ。それに、同居じゃなく同棲、まぁ、すぐにお前も家族の一員になるけど」
手をぎゅっと握ってきて意地悪く笑った奏に、ドキドキさせられるが、プロポーズめいた思わせぶりな言葉じゃなく、もっとはっきりとした言葉がほしい。
「そんなのわからないもん。一緒に住んでお互い嫌な部分って見えてくるんだからね」
「今、言ったよな。一緒に住むって」
「…言ったけど言ってない。例えばだから」
「そんなのひっくるめて俺には菜生しかいない。いい加減認めろ。俺に惚れてるんだろう⁈」
自信満々な顔が癪に触る!
絶対、認めたくない…
「あなたになんて恋してないんだから」