大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

「…帰ってほしくない?」

「当たり前だ。一緒に居たくないのかよ?」

不安そうな声に思わず笑いが込み上げて、奏の心の内を引き出したくなる。

「奏は?私と一緒に居たい?」

「だから、引っ越して来いって言ってる」

「同居なら、家賃とか光熱費、食費も折半で出すって条件なら考えてもいいよ」

「このフロアー全部俺ん家の物。各扉の向こうに親と、兄貴夫婦が住んでる。だから、家賃もない。光熱費も食費も折半なんてさせない。お前は、お前の言う必要な物と身一つで来ればいいんだよ。それに、同居じゃなく同棲、まぁ、すぐにお前も家族の一員になるけど」

手をぎゅっと握ってきて意地悪く笑った奏に、ドキドキさせられるが、プロポーズめいた思わせぶりな言葉じゃなく、もっとはっきりとした言葉がほしい。

「そんなのわからないもん。一緒に住んでお互い嫌な部分って見えてくるんだからね」

「今、言ったよな。一緒に住むって」

「…言ったけど言ってない。例えばだから」

「そんなのひっくるめて俺には菜生しかいない。いい加減認めろ。俺に惚れてるんだろう⁈」

自信満々な顔が癪に触る!

絶対、認めたくない…

「あなたになんて恋してないんだから」
< 192 / 211 >

この作品をシェア

pagetop