恋の始まりの物語
落ち着かない1日を過ごした。
まりあと透にも、結局、声をかけなかった。
──あんな脅しをかけられては、呼べない。

「お、いたいた。
誰も呼ばなかったな、いい子だ」

いい子?!

私は掛けられ慣れていないそんな言葉に、一瞬にして赤面する。

「な…っに、言ってんの。バカじゃない?」

さっと横を向いて、テーブルに右肘をついて顔を隠す。

嫌だ、こんな顔は見られたくない。

「ふーん?取り敢えずいつもの頼むぞ」

ここはいつも同僚と来る、半個室の居酒屋『リオン』だ。
慣れたものだから、湯川は私好みのおつまみと柚子サワーを勝手に頼む。

全部揃ったところで、湯川はグラスを軽く掲げた。

「とにかく、乾杯すんぞ」
「ハイハイ、おつかれー」
「違う。俺たちの未来にだ」

…湯川の顔を二度見した。
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