Ignition
会話が途切れるのを待ち構えていた店員が、気まずそうな様子でテーブルにドリンクをさっと乗せる。そして間もなくランチプレートが運ばれてきた。

想像どおり野菜中心のヘルシーメニューで、新井にとってはいかんせん量が少なかったが、とりあえず箸を持った。

「食うか」
「ですね」

 茶碗に控えめに盛られた玄米を噛み締めながら、新井は改めて今までを振り返ってみた。

 時間を調整して学校行事にも顔を出しているし、一通りの家事もこなしている。金曜夜の総務部の定例飲み会こそ目を瞑ってもらってはいるが、夕食も出来るだけ一緒に取るようにしてきた。

 緊急事態を除いては仕事の持ち帰りもしていないし、美香が成人するまでは恋人を作らないという、妻と別れたときに立てた誓いも守っている。

 友人関係にもうるさく口出ししたためしはないし、塾通いをしている今でも勉強を見てやったりもしている。これといって父親を避けるような素振りもなかった。
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