Ignition
「すごいな、美香は。俺が中学生だった頃はいつも散々で『高校に行く気はあるのか』って、そればっかり言われてたのに」

進路に触れるでもなく新井がベッドに掛けると、美香はとなりに並んで座った。

「ほら見て。ここ、解けたんだ。お父さんが前に教えてくれたところだよ、覚えてる?」

「どれ」
答案の証明問題を頭からざっと目で追った。

「正答率五%の難しい問題だったんだって。先生から褒められちゃった」
「ほんと、よく出来るようになったよな。図形は特に苦手なのに」

頭にぽんと手を乗せると、美香が嬉しそうに笑った。

「何回教わっても応用がきかなかったところだから、お父さんの教え方が上手かったんだよ。類題はもういけそう」

「そうか」
 新井は静かに頷いた。ずっと、美香から笑顔を向けてもらえることが、何よりも嬉しかった。

しかし今はその笑顔がどういった種のものなのかすら、分からない。側に居られる喜びには常に、気持ちを汲んでやれない不甲斐なさが付きまとった。
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