Ignition
■3

 塾から帰宅したばかりの娘の部屋の前に立ち、新井は一度ゆっくりと息を吐き出した。扉を軽くノックする。

「美香、ちょっといいかな」

扉が開き、制服姿の美香が顔を出した。肩まで垂れたくせのない髪、母親に似た端正な顔立ちと細い手足。新井と唯一似ているところといえば爪の形くらいのものだ。

着替えてからダイニングに下りて夕食というのがいつもの流れだったから、美香は少し驚いた様子だった。それでもそのままドアを大きく開き、立ち尽くしている新井を中に招き入れた。

「どうしたの」
「この間の模試、結果返ってきたか?」

「ああ、うん。今日先生から返されたよ」

思い出したように、鞄の中から答案と偏差値がまとめられた成績表を取り出し、新井に渡す。志望校判定表には難関私立校とA判定がずらり並んでいる。成績に関しては非の打ち所もない。
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