Ignition
深く息を吐きだして、新井はゆっくりと顔を上げた。今度は美香が、新井の膝の上にぽん、とティッシュの箱をのせた。 

 新井は最後すら記憶にないほど、久しぶりに流した涙を拭った。父のその姿に、美香はただ微笑んだ。

「美香がいなくなるのは寂しい。俺は、責任感や義務だけで美香を大事にしてきたわけじゃない。どうしても俺のために何かしないと気がすまないって言うのなら、大学を出てからだって構わないだろう」

「そんなの待ってたら、お父さん五十になっちゃうよ。だから……、栞那さんのこと少しでも気になってるなら、それをちゃんと伝えたほうがいいよ、誰かに取られちゃう。お父さんには支えてくれる人が必要だよ」

「そうは言っても、さっきすでに桐谷の好意を拒絶してしまった。それに、さっきも言ったが俺自身、桐谷のことをそういう風に考えられるかどうか、はっきりとはまだ――」
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