Ignition
脚の上から退いて、掴んでいた腕を放す。ようやく立ち上がることができるようになると、新井はまず乱れきった服を正した。桐谷はソファの上にぺたりと座り込んだまま一言も声を発せずに、ただじっと新井を見つめている。

「桐谷」

向かいにしゃがみ込んで目線を合わせた。手を伸ばすと、叩かれるとでも思ったのか桐谷は顔を強張らせた。

そのままそっと頬に触れる。詰めていたであろう息をゆっくりと吐き出し、桐谷は瞼を閉じる。

真剣な想いほど不器用な伝え方しかできず、桐谷は自分自身を持て余しているのだろう。腹立しさを感じるはずの行為ですら、その全部が真っ直ぐな愛情表現なのだと思うと、全てを許せるどころか、感情を御することも出来ないままに、泣いたり怒鳴ったりする姿まで愛おしく感じてくる。
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