Ignition
桐谷は力も入らなくなった手で、新井の腕を引っ張った。新井はそれに抗おうとはしなかった。

「何だよ」
気力の失せた声でそれだけ言うと、桐谷はぎゅっと眉根を寄せた。

「……だって、あんまりにもブレーキばっかりかけられたら、私のことを好きになるのがまるで悪いことみたいじゃない。

溺れるのが恥ずかしいくらい年の差があるから? それとも肉欲にまかせてがっついてるみたいでカッコ悪い? そんな上辺なんてどうだっていい。私はちゃんと新井さんのこと分かってる。だからどんな新井さんを見せられたって、どうせ好きよ」

 新井の口から溜め息が漏れる。桐谷の目が不安に揺れた。

「……ごめんなさい、怒ってる?」

「桐谷が誰と付き合っても上手く行かない理由がよく分かった。相手が男なら、年上なら何をやっても許されるのか? そんなめちゃくちゃな愛情のぶつけ方をすれば、理解されるはずがないし、したくもなくなる」

淡々とそう告げると、桐谷の表情は次第に後悔に沈んでゆく。
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