王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「お前だって王太子なら分かるだろう!? 次期王様という立場にありながら、それがいつ回ってくるかも分からないもどかしさが! 自分の方が優れているはずなのに追うではないことも悔しさが!」


「さあ、分からないな。どんな立場にあろうが民に寄り添うのが王族の役目。それを忘れた者の考えなんざ分かりたくもないな」


「貴様! おいシュカ!お前はダルトンを殺せ!」


リアムは怒りに満ちた表情のまま、剣を抜きアーノルドに向けた。

シュカは肩をびくりと震わせて剣を拾い上げた。


「アーノルド様!」


「騒がないでいい。まあ、俺的には剣で戦うのもいいけど、ここはもうひとつ話をしたいことがあってね」

「なんだ!」

「リアムじゃないよ。お前だ、メイ」


突然名前を呼ばれたメイは「え?」と小さな声で返事をした。

「なんて悲壮な顔をしてるんだよ」と柔らかく微笑んだ。


「お前の鎖は解けた」


鎖、それは何かを縛り付けるもの。メイを縛り付けるものといえば一つしか無い。


「え……? どういう、こと……」

「こういうことですよ」


出入り口から現れたのはアーノルドの側近・ユアンだった。


「ユアン様!?」

「こんにちは、オリヴィア様。なんだかお久しぶりですね。ちょっと彼らに会いに行っていたんです」

「彼ら?」


朗らかに微笑むユアンの後ろには複数の人がいた。

それはとても痩せた、メイの両親とその兄弟だった。


「メイ……!」

「ああ、メイ……!」


彼らはメイの周りを取り囲むとぎゅっと彼女を抱きしめた。


「おかあさ……おとうさ……みんなも……どうして……」


メイは呆然としながらユアンを見つめる。ユアンは少し考え込むような表情をして、目を細めて笑った。


「王太子殿下の命令で、少し」


そこまで言うとユアンはアーノルドを見つめる。後は全てアーノルドに説明させたいらしかった。


「西の国の情勢は元々知っていたし、姉上が来てからは怪しいと思っていた。メリーアンが来たときからはユアンに探らせて保護させていた。

少々見つけるのに手こずり今になったようだがな」


恨めしそうな表情を浮かべるアーノルドだが、ユアンは満足そうな表情をしている。


「聞けば、彼らはとても貧困な場所で生活していたようで。その時に西の国から諜報員の話を持ちかけられたとか。

困りますよ、我が国の民をそちらの諜報員にしてしまうなど。

アンスリナの辺境地は王国の守護も及びにくい。うまいところをついてきたなと思いましたよ」

「だがそこまでだな。大人しく観念しろ」


余裕そうな表情を浮かべるアーノルドだが、リアムは酷く悔しそうに歯ぎしりし、「まだだ」と僅かに笑った。
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