王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
その台詞にオリヴィアの思考回路はぴたりと止まった。呆然と立ち尽くしながら、殿下の言葉を脳内で繰り返す。

……なんて歯が浮く台詞だろう。こんなことを言って恥ずかしいとは思わないのだろうか。

王太子になればこんな台詞一つ吐いたくらいでどうにも思わない精神を身に着けるのだろうか。王族とは全くもって摩訶不思議な存在である。

普通の令嬢ならば、アーノルドのこの言葉を頬を赤らめたりするのだろうけど、生憎とオリヴィアには驚きと呆然の方が勝っていた。


それに、アーノルドはオリヴィアを芍薬だと言ったけれど、芍薬はあまり日持ちのしない花だ。

そんな花にオリヴィアを例えるということは、オリヴィアは今は美しくとも、すぐに美しくなくなる、ということを暗に示しているようにも思える。


殿下は自分を馬鹿にしているのではないだろうか、とオリヴィアはそんな疑問を抱いてしまうけれど、そんな疑問を長く考える間も与えずにアーノルドは呼びかける。


「そうだ、まだ自己紹介をしていなかったね。

僕は第一王子のアーノルド。

どうぞよろしく、オリヴィア嬢」


「…こちらこそ、よろしくお願い致します、殿下」


オリヴィアはスカートの裾を持つ。

先ほどまで穏やかな春の陽だまりにも似ていると思っていたアーノルドの極上の微笑みも、今のオリヴィアはなんだか胡散臭いと思わずにはいられなかった。



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