王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
どんなに嫌いでも王太子である彼を呼び捨てになどできるわけもなく、オリヴィアはそう呼んだ。

しかしそれはアーノルドのお気に召さなかったようで、眉間に皺を寄せて険しい目をしている。それから真一文字に結んでいた口を開いた。


「アーノルド」


「こっ、これ以上は無理です! たかが婚約者の私が殿下を呼び捨てになどしたら、あまりの馴れ馴れしさに近衛兵に刺されるんですって! 私、絶対に死んじゃいますから!」


その説明に納得がいったのか、アーノルドはオリヴィアの顎から手を離すと、「仕方がないな」と溜息を吐き出した。

オリヴィアは安堵から胸に手を当て息を吐き出した。これでひとつ身の安全を確保できた。


「これからはそう呼べ。お前に名を呼ばれると嬉しい」


アーノルドはふわりと目を細める。

それを見たオリヴィアは思わず目を見開いた。彼の笑顔は、まるで花が咲くみたいだったからだ。

そしてオリヴィアは自分の心臓がいつもよりも少しだけ速く動いていることに気づいて、視線が少し彷徨わせる。どうしてこんなに心臓が忙しないのか、原因が分からないのだ。

しかしそんなオリヴィアに気づかないアーノルドは、オリヴィアの手を取って歩き出す。


「え?」

「言っただろう、お前は俺の婚約者だと。婚約者と散歩をするんだ、このくらいのことは許せ」

「しっ、しかし!」


もう、このまま破裂してしまうのではないかと思うほどに心臓は大きく跳ねる。それでもオリヴィアはなんとか反論しようとするが、アーノルドは前を見据えていた。

その視線が少しだけ鋭いことに気づいて、オリヴィアも彼の見据える先を見つめる。

そこには、オリヴィアも知っている顔があった。


「やあ、マリア嬢」


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