王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
お気に入りのドレスを身に纏い、頬に紅をさす。それだけでオリヴィアは優美な貴族令嬢の品格を漂わせる。それは数時間前まで平民の装いをしていたなどとても信じられないほどだった。


「お嬢様、素敵です」


着付けを手伝うメイはうっとりとした表情を浮かべた。

それを見たオリヴィアは少し呆れながらも「ありがとう」と目を細める。というのも、オリヴィアのドレス姿を見たメイはいつも恍惚とした表情を浮かべるのだ。いい加減飽きないものかとオリヴィアはつい思ってしまうのだった。

身にまとうドレスはアーノルドとの見合いで着用したものと同じものだった。自分のより身分の高い人に謁見するための晴れ着は一つしか持ってきていなかったからだ。


「それにしても、王太子殿下のお見合いに来たはずだったのに、ディアナ殿下にお会いすることになるとは思ってもいなかったわ」

「ええ、そうですね。西の国とアンスリナは隣同士ですが、お嬢様は今まで一度も西の国の方とお会いしたことはありませんよね。ディアナ殿下とも初めてなのでは?」

「そうね」とオリヴィアは溜息を吐き出した。

幼い頃はよく屋敷を飛び出して山中を駆け巡っていたオリヴィアだが、西の国には一度も行ったことがない。領地アンスリナと隣り合っているにも関わらずだ。

いかにディアナが西の国の王のもとへ嫁いだとは言え、それほど国同士の仲は良くはないのである。


「アンスリナを治める領主の娘として、恥じない姿を見せなければね」


もしオリヴィアが領主の娘としてあるまじき姿をディアナに見せてしまったなら、西の国がアンスリナを軽んじて襲い掛かってくるかもしれない。

いくら辺境の地とはいえ、王妃として嫁いだディアナの母国でもあるため考えにくいけれど、可能性は否定できないのだ。

ここで自分がみっともない姿を見せてしまえば、大好きな領地を、領民を、危険に晒してしまうかもしれない。

それだけは絶対に避けなければならないとオリヴィアの心が熱く燃える。

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