王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「ええ、そうなの。それに加えていつも自信がなくて、寂しがり屋で、いつも私達家族のそばを離れようとしなかった。父上はお忙しくて一緒に過ごせる時間はほとんどなかったから、母上か私といつも一緒だったわ」


あのアーノルドが母か姉にいつもくっついていたなど、少しも想像ができない。

けれど、きっとこのことを後でからかおうとしたら怒られてしまうだろうことはすぐに想像できた。

怖いと思う一方で、けれど婚約を破棄に持ち込むには良い手段なのかもしれないと思うオリヴィアだった。


「でもね、ある時、もともとお体が丈夫でなかった母上が体調を崩されて、そのまま亡くなってしまったわ。それからアーノルドの引っ込み思案は強くなったの。今までにも増して言葉数も減って、私の傍を離れようとしなかった」


ディアナの言葉で、オリヴィアは何と浅はかな考えをしていたのだろうと自分自身を恥じた。

アーノルドが抱えるものは、決してからかっていいような内容ではない。むしろ抱き締めないといけないような、そういう儚いようなものなのだ。


「その上、母上が亡くなってから間もなく私は西の国に嫁ぐことになったわ。私とアーノルドは年が離れているから、私が嫁いだ時には、アーノルドはまだまだ幼い男の子だった。アーノルドは無条件に自分を愛してくれる人を、短期間に二人もなくしてしまったの」


ディアナの話し方には少し違和感があった。

昔を懐かしむようであるのに、アーノルドを愛していると攻撃性しているのに、どこか陰があるのだ。それがなぜだろうとオリヴィアは思っていたが、ようやく分かった。

ディアナは、まだ幼く心が傷ついたままだったアーノルドを一人にしてしまったことを悔いているのだ。

ディアナの結婚は、この国と西の国の平和に繋げるための政略結婚だ。きっとディアナ自身が望んだものではなかったのだろう。

それでも受け入れざるを得なかった。そのために弟を孤独にしてしまうと知っていても結婚を断れなかったのだろう。

王族とはどんなに国に縛られたものだろうとオリヴィアは悲しくなった。
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