王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
「今のアーノルドは、きっと誰からも愛されるでしょう。誰からも愛される王太子となるように、完璧に作り上げて振る舞っているから。でも、きっと思っているはずなの。肩書きや外見に囚われず、本当の自分を見てくれる人を、本当の自分を愛してくれる人が現れることを」


それからディアナはオリヴィアを見つめて目を細める。


「あなたは、アーノルドの本当の顔を知っている。そしてそれでも婚約者になってくれた。そのことの意味は、あなたが思っているよりもずっと大きなことよ。きっと誰より、アーノルドはあなたのような人を求めてきたから」


アーノルドほどの立場のある人なら、たかが自国の伯爵家令嬢との婚姻など造作もないことだろう。それはオリヴィア自身も分かっている。

それなのにアーノルドはそれを拒否した。

そんな簡単な方法で手に入れてもつまらない、オリヴィアの心が欲しいのだと。

その言葉が、恋愛を遊びのように捉えて茶化しているようだ感じていたオリヴィアはアーノルドを快く思っていなかったけれど、それは間違いだったのかもしれない。

アーノルドはオリヴィアが思っていたよりも、愛に飢えているのかもしれない。愛したくて、愛されたいのかもしれない。

そう思うと、途端にアーノルドの行動のひとつひとつが今までと違ったように思えてくる。


「アーノルドがあなたと出会えたことを姉として嬉しく思うわ。これからもアーノルドをよろしくね」


オリヴィアが何と答えたら良いかと思って考え込んでいると、ちょうど侍女がお菓子を持って戻ってきた。


「こんなことを言ったと知られたらアーノルドに怒られてしまうわ。これは2人だけの内緒ね」


侍女に知られないようにオリヴィアの耳元で呟くと、ディアナは愛らしく片目を瞑る。

薔薇の花も、豪華なアフタヌーンティーも、目に映るどれも煌びやかで輝いているのに、オリヴィアにはなぜかそれらが急に空しく見えてきて胸が苦しかった。

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