一途な彼にとろとろに愛育されてます
「ね。焼きそばおいしい?」
「焼きそばをマズく作る方が難しいだろ」
「そうじゃなくて!作った側は『おいしい』のひと言が聞きたいの!」
たかが焼きそばひとつに感想を催促する私に、檜山は面倒臭そうに苦笑いをする。
「はいはい、おいしいおいしい」
「あっ流した」
「流してないって」
誤魔化すように、檜山は自分の分の缶ビールを私のグラスに注ぐ。
面倒な話題になると私のご機嫌を取って回避しようとするのだ。
そうはいかない、そう思いながらも、注がれたビールをひと口飲むと幸せに顔がほころぶ。
そんな私を見て、檜山はおかしそうに笑った。
不意打ちのその柔らかな笑顔に、胸がキュンと音をたてたのをしっかりと感じながら、私は聞こえないふりをした。
無愛想な顔が時折見せるその笑顔は、反則だ。その度私は、その表情ひとつにときめいてしまうから。
ただの同期で同居人。
そうわかっていてもいつしかそれ以上の気持ちを抱くようになっていた。
片想いの気持ちは今日も、『同居人』の彼の前では隠したまま。
私の片想いは、2年目に突入しようとしている。