【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「真実を知っているのは、私と麗宝お姉様と流雲お兄様くらいかしら?」
いつもおどおどして、何かに怯えているような彩姫長公主。
でも本当は凛として強い方なのだと、黎祥様が言っていた。
今なら、分かる気がする。
「……先帝の、本当の母君は」
「湖烏姫よ。一夜だけ、お父様の閨に忍び込んで……先帝を授かったそうよ。最も、一番最初に皇子を産んだから……柳皇太后を貴妃、いえ、あの頃は皇后ね。その座から引きずり下ろして、自分をつけろってうるさかったらしいわ。それを聞き入れなかったら、彼女は彩蝶様や柳皇太后に危害を加えようとしたみたいで……辺境に送られたの」
国の決まりで、異民族の女は皇后になれない決まりがある。
皇后、皇太后というのは、皇帝の唯一の本当の家族、妻と認められる地位であると同時に、この国の中で一番身分が高く、尊ばれる存在である。
そんな頂点が、この国の女でなかったら、それはすなわち、その民族にこの国を乗っ取られたということを公に示しているようなものである。