【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―

委ねる




「李皇后様、」


「ん~」


「陛下がいらっしゃっていますが……」


「具合が悪いって、お帰しして」


「ですが……」


「お願いよ。本当に、具合が悪いの」


語尾を強めて、言う。


すると、侍女は戸惑いげに


「分かりました……」


返事をして、出ていく。


「……」


帳で隠された、褥の中。


安眠作用のある香を焚きながら、翠蓮は枕に顔を埋めた。


皇子を産んで、どのくらい経っただろう。


最初の嵐雪さんとの計画通りというか、皇子を産んだ翠蓮は皇后として、そして、皇太子の母として、国全体で祝われる宴状態が続いてて。


何日経っても、その空気は薄れる様はなく……嵐雪さんからの文によると、皇子はとても大事に慈しまれているらしい。


黎祥も頻繁に皇子の元に通い、深い愛情を注いでくれていると言う。


その話だけで、その話を聞けるだけで、翠蓮は幸せな気分になれるから、不思議で。


出産後、身体の怠さや痛みは取れたが、出産の時に見てしまった夢の残像は消えてくれなくて。


眠れない日々が、


会うつもりないのに、黎祥が訪ねてくる日々が、


ただ、続く。


「…………彩苑、さん」


小さく、前世の自分の名前を呼ぶ。


どうして、あんなにも高尚な人の生まれ変わりが、自分なんだろう。


考えれば考えるほどに、涙があふれる。


あんなに幸せだった日々ですら、あんな終わり方をした。


自分もまた、何も守れないんだと言われているようで……苦しくて、仕方がない。


皇子を産んだ後、産後の肥立ちが悪いという理由で宮に籠って、事件を解決出来たら、あとは全てを嵐雪さんに任せ、翠蓮は下町に帰るつもりだった。


なのに、だ。


解決の糸口が見えなければ、


夢の残像のせいで、考えもまとまらない。


< 673 / 960 >

この作品をシェア

pagetop