【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……綺麗ね、藤」
「ん?ああ……昔、そう言えば、母上が言っていたな」
「?」
「花にはそれぞれ意味があって……何だったかな。藤は確か……『優しさ』『決して離れない』『恋に酔う』……他にもあった気がするが、思い出せないな」
「素敵な言葉ね」
「私も、幼心にそれは思った。……父と母はこの季節になると、二人で良く、この藤を見上げていたからな。少し、私としても、思い入れが深い」
黎祥の腕に包まれながら、藤を見上げる。
「他にも、花には言葉はあるものなの?」
「私はそう聞いて育ったな。異民族より嫁いでいらした母上は後宮に馴染めるように努力はしていたが、決して、何事に対しても万全な対応が出来ていたわけではないから。故郷より持ってきた、その花の本が慰めだったんだろう。私もよく、読んでいたな。……懐かしい、あの本は今、どこにあるんだろうか」
そう言った黎祥の横顔はどこか寂しげで、翠蓮は彼にめいいっぱい、抱きつく。
(過去に起こったことが、消えるわけじゃない)
これから先も、艱難辛苦に見舞わられるだろう人生。
それでも、二人一緒なら。
「これからも、黎祥のお父様とお母様のように、花を見上げてられるといいね」
過ぎ去った時間は二度と戻ってこないけど、その分、未来で何かを見つければいい。
翠蓮がそう微笑みかけると、黎祥も頬を和らげて。
「そうだな―……」
また強く、翠蓮を抱きしめてくれた。