【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―

大きな不安





黎祥が、どこから飛んできたのかわからない矢に打たれ、倒れ臥す。


「やだっ、黎祥!黎祥!!」


庇ってくれた流星さんも駆け寄ってきて、黎祥の頬を叩く。


「……冷たいな、毒か」


冷静に分析し、柳太后を振り仰ぐ。


「翠蘭!すぐに、」


「分かりました!」


流星さんが言い終わる前に、動き出す柳太后。


「―翠蓮!」


そして、さっきので成功していたのか、現れた五龍。


松明が倒れたことによる、周囲の熱さなんて気にしてられなかった。


でも、それで、人が焼け死ぬのは間違っていて。


「炎稀(エンキ)!蒼炎(ソウエン)!!」


思わず、その名前を呼ぶ。


どこから、その名前が出てきたのかな。


わからない。―でも、思いついたの。


自然に、ねぇ、力を貸してくれるの?


優しく笑う、人影。


『大丈夫よ―……翠蓮』


優しく、頭に触れる温もり―……。


「チッ」


見たことの無い五龍の一人らしきやつは、箇所に手を翳すと。


「鎮まれ」


松明の火を、祭壇の火を消して。


ゆっくりと振り返って、涙が溢れているのか、溢れていないのか、わからない翠蓮の頬を優しく撫でた。


そして、そんな見知らずの、彼の瞳の奥に懐かしい人を見る。


「―また、泣いておるのか?」


「……ごめんなさい、ごめんなさい、蒼巌(ソウゲン)……」


声が、掠れる。


いつの間にか、ひとつの棺は空になって。


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