【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「では、早速お願いしてもいいか?右大臣殿、補佐殿」


「はっ」「なんでしょう」


拝礼して、黎祥の言葉を待つ彼らに黎祥は微笑んで。


「この国から、後宮が無くなってしまったら」


「……」


「その未来を、教えてくれ」


翠蓮は無理だと、やめておけと言ったけれど、黎祥は何があっても、翠蓮以外愛すことは無い。


沢山の子を遺す為?―いや、それらはいつか、火種の元となる。


血は大事かもしれないが、民に比べると重要度は低いはず。


国があるところに、民がいるのではない。


民がいるところに、国がある。


上に立つものは、何であっても彼らを守る義務がある。


礼月と秋月は顔を見合わせると、和らげて。


「すぐにお調べして参ります」


「ああ。それと……礼月、話を聞きたいんだが」


「なんの話でしょう」


「父上の、後宮についてだ」


「……」


秋月は自分は必要ないと判断したのか、静かに部屋から出ていく。


礼月は傍によってくると、


「――――妃様ですね?」


とある妃の名前を、口にする。


「淑鳳雲叔父上は、そんなに慕われていたのか」


「まぁ、親しみやすく、優しいお人柄でしたから。誰もが憧れたものです。至上の帝に嫁げなくても、鳳雲様を見る機会があるのなら、それでいいというようなものがでるほど。―確かに、美形でしたけど」


「…………李祐鳳は面影があるか?」


「御子息様ですか……私は古くから使えていますが、祐鳳殿はどちらかと言えば、若い頃、でしょうか。あと十年も経てば、鳳雲様に似た良き軍人になられるかと」


「それは、尚更、後宮を無くさねばな」


祐鳳は後宮に住まう、灯蘭の護衛だ。


後宮内を動き回っているし、鳳雲叔父上のように見目麗しい将軍など、目をつけられてしまうだろう。


しかも、皇后となった翠蓮の兄ときた。


冤罪とかを掛けられかねない。


そして、それはいつしか、翠蓮の足を引っ張る。


それをちゃんと礼月も気づいているのか、


「そうですね。先々帝陛下は、いつも苦笑いで見ていました。鳳雲様の奥方の白蓮様はいつも不安そうにしていて……懐かしいですね。彼を恋い慕う人間が、先々帝の妃の中にいたとしても仕方が無いと思います」


当時の情景を思い出して、苦笑した。


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