【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『そんな顔をしないで、』
姉は嫁ぐ日も、笑っていた。
きっと、嫁ぎ先でも笑うんだろうと思った。
どんなに苦しくても、泣きたくても。
声を殺して、笑い続けるんだろうと。
『幸せになってくるわ』
そう言って、笑って消えた姉。
姉と、私は母親が違った。
姉の母は、私の母の元に父が通い詰めになっている時に、病でそのまま帰らぬ人となったと聞いた。
だから、なのか。
実の母親を失ってすぐ、現れた母と呼ばなければならない存在。
自らの母の死を悼む時間もなく、生まれてきた妹。
笑っていれば、大丈夫。
何もかもが、上手くいく。
そう、姉は思っていたのだろうか。
姉が嫁いだ日、この日、初めて姉を思って、私は泣いた。
母と父、そして自分への嫌悪感を、確かに感じた時だった。
姉とは、自分でも驚く程に歳が離れていた。
元、愛人の娘と正妻の娘の違い―……考える度、姉のことが思い浮かび、笑顔が思い浮かび、胸が傷んだ。
十八で、突然生まれた妹を可愛がってくれた姉は、とりあえず凄かった。
尊敬すべき存在であると、改めて感じた。
姉は、かなりの高権力者の妻となっていた。
他にも多くの妻妾を抱えた相手だったが、姉は真っ直ぐにその夫を見つめ続け、愛し、敬い、また、子を産んだ。