【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「……黎祥、貴方はなにか思う?」


「ん?」


「誰かを恨むしかない人生って、嫌よね……」


「……」


黎祥は恨みによって、国を平定した。


恨みを持って、先帝を討った。


恨みを持って、国と向き合ってきた。


あの日、傷だらけで路地裏で消えそうになっていた貴方はもう居ないけど、それでも、ふと思い出しては怖くなる。


この人はあの時、確かに生きることを諦めていた。


何故かって……それは、簡単だ。


誰にも望まれない生を、誰が懸命に生きようと思うだろうか。


「……私は死なないよ」


黎祥は優しく、翠蓮の頭を撫でながら。


「私はそんなに簡単に死んでやるつもりもないし、この国の皇位を譲ってやる気もない。譲るとしたら、遊祥だけ……自分の息子にだけだな」


「黎祥……」


「大丈夫。もう二度と、私の生きている限りはこんなことは起こさせないよ。お前が隣にいるのなら、何でも出来そうな気がするしな」


胸が痛くて、たまらない。


黎祥たちには慣れたことでも、翠蓮には重くて。


皇后であり続ける覚悟を、試されているようで。


「大丈夫だよ」


優しく抱きしめられて、涙がこぼれる。


泣いちゃダメだと、泣くようじゃ務まらないと、目元を擦ろうとすると、それを止められる。


「泣いてもいい。私がいるから」


「でもっ、私…っ…」


「お前は私の皇后である前に、私の妻だろう?夫である私がいいと言うんだ。だからいいんだよ」


滅茶苦茶な論だけど。


「っ、ふぅ…っ…」


―この人が、夫で良かったと心から思う。


この人がいるのなら、生きていけると。



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