その悪魔、制御不能につき



ぎゅ、と長い腕が私の体に絡みつく。背中越しに感じる体温が温かいのがなぜかおかしかった。この人の指先は冷たいのに体温は感じるなんてね。


クスクスと笑みをこぼせば不思議そうに私の顔を覗き込む社長の唇に自分のそれを重ねた。


しっとりと自分の感触を移すかのような口付けにぱちぱちとまばたきをする社長。こういうこと慣れてるくせにたまに反応が初々しいというかなんというか。



「あーあ、嫌になっちゃうわね」



なんだかんだで自分の中にこの人がいる。それが当然なものになっている。あれだけ嫌だと思っていたけど、自覚して受け入れてしまえばもう遅い。



「入籍はいつでもいいわ。結婚式はうちの両親が楽しみにしてるからするけどあんまり派手なのは嫌よ。親戚内で済ませてね。あと絶対に仕事は辞めないから」



振り返ればキョトンとした顔で私を見つめる社長がいて思わず吹き出してしまった。ほんと、なんでこの人は変なところでスレてないというか、純なところがあるんだろうか。


普通は都築さんみたいに腹黒いところとか自然と身につきそうだと思うけど…でも、意外とそういうところも気に入っているところだったりする。



「それでもいいなら結婚する?」


「する」



食いつき気味に返事をされた。それがなんだか執着されている証みたいで少し嬉しい。



「する…絶対する……輝夜、」



ぎゅう、と抱きしめられる力が強まって、何度も子どもみたいに名前を呼ばれる。



「輝夜…やっと、手に入れた」



社長らしくもない初めて見る無邪気な笑顔に見惚れたことは、私だけの秘密にしておこうと思う。



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