その悪魔、制御不能につき



「どっちかと言えば生け贄の方が正しい気がするわ。契約者だとしたらもう少し貴方のことも制御できるもの」


「その表現は無理やりっぽくて好きじゃないな」


「あんたちょっと数年前の自分の行い見つめ直したらどうよ」



おいこらキョトンとするな。あれは無理やりじゃなかった同意あってのものだなんてほざいたら一発そのお綺麗な顔面にブチかますわよ。


フン、とわざと背中に体重をかけるがそれさえも嬉しそうにしてお腹に回った腕の力を強くする社長。嫌がらせになっていないわ、これ。



「制御不能な旦那様を持つと苦労すること、理解してほしいわ」


「俺は俺の思う通りにならない妻をどうにかする方法が知りたい」



ひとり言に真面目に返すんじゃないわよ。というか従順な私なんて想像もできないししようとしたら気味が悪い。本人でさえそう思うんだから社長からしたら私に対する興味なんて消え失せるんじゃないだろうか。


……いや、それが本性ならまだしも社長は素の私知ってるし意味ないか。そういうプレイだとしてあれやこれやして自分の身が危険に陥る結果しか見えない。


まぁ、いろいろなゴタゴタやら何やら合った中でそんな社長を選んだのは私自身だ。不満もあるしうんざりすることも鬱陶しいと思うこともあるけど後悔だけはない。


これからもこの悪魔のような男に振り回されながら人生を生きるのも楽しみだと思う自分がいるのだ。


クスクスと笑う私に不思議そうにする社長の襟首を掴んで振り向きざまに口付ける。



「私をどうにかしたいのなら、せいぜい私を楽しませなさいよね、鷹斗?」



挑発的に微笑んですぐに体ごと離れる。呆気にとられたような表情をする社長に思わず吹き出した。振り回されながら、なんて言ってたけど振り回すのも楽しいわね。



「どっちが悪魔なんだか……」



拗ねたような呆れたような社長の声を後ろに聞きながら私は、私自身が制御するのは無理でも悪魔な旦那様を乱すことはできるのね、と機嫌よく口角を上げた。




fin


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