のばら
「ほらあたし、美術の最後の授業のあった日休んじゃって完成させられなかったじゃん? でも出さないと成績つけられないからって中川先生に言われて、家で仕上げてきたんだよね。ね、びっくりした?」
顔を紅潮させてまくしたてるのばらの前に、あたしは言葉を失っていた。
「あたし、アイドルとか芸能人とか全然詳しくないからさあ、迷った挙句に。へへ」
みんな好きなバンドやアイドルの名前をロゴにしていたのに、のばらは――――。

視界がゆらゆらと歪む。
職員室の前の廊下に、あたしはしゃがみこんだ。
「えっ、千代子? えっえっ、どうしたの? 熱中症?」
のばら、のばら。
「…え、もしかして感動しちゃった? それともあたしやっぱり天才かな、この色づかい。ねえ、千代子」
あたしに、できるのかな。
のばらを裏切ることが。のばらから離れることが。

廊下の窓からたっぷりと射しこむ夏の光が、泣きじゃくるあたしの肩にきらきらと降り注ぐ。
潮騒のような喧騒と夏のにおいを感じながら、今日だけ、今日だけは、のばらと海へ行こうと思った。
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