あの時からずっと、君は俺の好きな人。
プロローグ 2012年6月 生存者は1名のみ
「まだふてくされてるの? 藍」


隣に座るママが呆れ気味に言う。しかし私は水族館でお土産に買ってもらったジンベエザメのぬいぐるみを抱きしめて、窓の外を見ていた。

時折揺れる窓から見えるのは、緑の生い茂る山々と、その稜線の隙間から時折見える澄んだ青空のみの退屈な風景。

ここは新幹線の中なのだ。

大阪で開催されたジュニア水泳の全国大会に出場した帰り。新横浜行きの新幹線に私たち一家は乗車していた。

4歳から水泳を始め、好きで泳いでいた私だったが、才能があったらしく、2、3年前から周囲のざわめきが凄い。

どうやら私は、将来国際大会への出場が期待されているほどの、有望なスイマーらしい。

だけどパパとママは呑気なもんで「嫌なら辞めてもいいよ。でもやるなら頑張りなさい」というスタンス。

だから私はプレッシャーを感じず、楽しみながら頑張れていた。

パパとママは出場する大会にはいつも駆けつけて全力で応援してくれた。今回の大阪の大会ももちろん二人ともついてきてくれた。

しかし大会の日程はたった1日だったのに4泊5日も滞在したので、気持ち的にメインは家族旅行だった。
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