セカンド・プライオリティ
ソムリエエプロンのポケットから少しだけくしゃっとなった箱を取り出す。
その中の1本を口に運んで火を付けると、特有の味が口の中いっぱいに広がった。

ふーっと長く、ゆっくりと吐き出した煙がゆらゆらと空にのぼっていく様子を見つめる。空は青く晴れ渡っていて日差しは眩しいくらいなのに、背もたれがない椅子のせいで壁に持たれさせた背中にはコンクリートの冷たさがじんわりと伝わってくる。

暖かいのに、冷たい。
なんだか安心感のない、大丈夫という言葉。

そんな重なり合う矛盾に思考をかき乱されていくようだ。

もう一方の手でスマホを取り出す。指で画面をスライドさせ、ロックが解除された画面に映し出された美己からのメッセージに返事を打ち込んでいった。

”ありがとう。美己もあんまり無理するなよ。”

そう親指で打ち込んだ返事を…消した。
何か違う、いや何か足りない…そんな気がしたから。

「ケチな男と言葉足らずな男、ねぇ…」

ぼそっと口からこぼれたのは、先ほどの太一の言葉。
おそらく俺に向けられたのであろう後者の言葉が、ぐっと突き刺さってくるようだ。
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