冷たい幼なじみが好きなんです
「わ、びっくりした!」
頭のなかは遥斗のことだけだったから、いきなり話しかけられたせいで驚いてしまった。
「びっくりじゃねーよー、俺のほうがびっくりだし」
竜はそう言いながら空席である優香の席を引いて、どかっと腰かけた。
「なんで竜がびっくりするの?」
わたし、なにか驚かせるようなことしたっけ?
「あ、ため息ついてたから?」
わたしってそんなにもため息なんてつかなそうに見えるのかな。
まあ、わたし自身、そう思ってた。
……ゴールデンウィークが開けるまでは。
「まあそれもそうだけどー…」
少し言いずらそうに語尾を濁し、続きを言わない竜。そんな竜も、珍しい。
「なに?」
「…朝のやつに、びっくりしたんだよ」
思い浮かべるように少しだけためたあと、はっきりとそう言った。
「朝?」
いったいなんのこと?と一瞬思ったけど、すぐにわかった。
「あの幼なじみと、喧嘩でもしたのか?」
やっぱり。遥斗のことだ。
遥斗がわたしに冷たい態度をとるところを、竜ははじめて見たのだろう。
といっても、竜にとって遥斗は“あの幼なじみ”ぐらいの認識だ。去年も遥斗は別のクラスだったから。
「喧嘩っていうか…」
語尾が弱くなる。
むしろ、喧嘩のほうがよかった。
だって、喧嘩なら仲直りすればいいから。
これは喧嘩ではない。
「…ゴールデンウィーク明けに、いきなり“ずっと嫌いだった”って言われて…それからずっと、話してないんだよね…」
はじめて遥斗のことを人に相談した。竜なら遥斗と同じ男だし、なにか意見をくれるかもしれないと思った。