冷たい幼なじみが好きなんです
「今、1つ食べてみる~?」
わたしの口の端から流れる透明のよだれが見えたのか、優香はふふって笑ってタッパーのフタをあけて差し出してくれた。
「ありがとう~!!どれにしようかな~!!」
ハート、星、お花、いろんな形があってわくわくするし、どれも綺麗に焼けている。
わたしは不器用だから、型抜きさえ上手にできる気がしないよ。焦がすのなんて、目に見えてる。そもそも、普段お菓子作りをしようなんて考えもしないよ。バレンタインデーの日に、お母さんに手伝ってもらってなんとか食べられるチョコのお菓子を作るくらいだ。そういえば、お母さんは料理が上手で、なにを作ってもおいしい。どうしてわたしはそこが似なかったんだろう。
「星にするね!!」
「うんっ」
星型のクッキーを1枚つまんであーんと開けた大きな口に運ぼうとした、そのとき。
「もーらいっ」
横から聞こえてきたそんな声とともに大きな手が伸びてきて、わたしのクッキーを一瞬にしてかっさらっていった。
クッキーを待ち構えていたはずの大きな口は、むなしく閉じられる。
だけどすぐに開けた。
「竜!!わたしのクッキーとらないでよ~!!」
こやつに文句を言うために。
桂木竜(かつらぎりゅう)。
去年も同じクラスで、仲良しの男友達。
170センチの身長で、髪の毛はわたしより明るめの茶色をしていて、いつも毛先を遊ばせている。顔のパーツのなかで、つり目なのが印象的だ。
「うまっ!さすが優香っち!」
クッキーをごっくんと跡形もなく飲み込み、感動の声をあげた竜。
「ありがとう!桂木くん」
「ってちょいちょいー!わたしを無視するな!!」
「まあまあ、笑ちゃん!たくさんあるんだからっ」
「そーそー!カリカリすんなって!」
ちっとも悪びれていない様子の竜にまったくもう~!と思いながらも、気を取り直して優香からもう1枚クッキーをもらった。
竜にまた取られないように今度こそ慎重かつすばやく口に運んでみせる。
「ごほごほっ」
ところが、勢い余ってクッキーの欠片が喉の変なところに入ってしまった。