冷たい幼なじみが好きなんです


遥斗の体温が全身を駆け巡る。

それくらい、背の低いわたしは背の高い遥斗のなかに綺麗に収まっているのだ。


目の前に遥斗の胸板がある。


遥斗の規則正しい鼓動が伝わってくる。


わたしは絶対、自分の鼓動を聞かれたくないと思った。


なぜならわたしの心臓は、今までにないくらいドキドキしているから。


遥斗の思い通りに抱き締められながらも、それだけは阻止しようと、自分の胸元を自分の腕でカバーした。


遥斗になぜか抱き締められていることに最上級に戸惑いながらも、言い様のない安心感に包まれた。


遥斗が言っていたとおり、このまま眠りについてしまいそうだ。


ずっとこのままでいたい──。


まぶたが重たくなってきて、だんだんと視界が閉じていきそうになったとき、

遥斗は大きな手のひらでわたしの頭や髪を軽くなでたり、

わたしの背中や腰のあたりを少しだけさすって………

「………百合と全然ちがうな……」と一人言のようにつぶやいた。


本当に小さなつぶやきだったけれど、この静寂のなか、わたしの耳にはしっかりと届いた。


…………なに、それ………。


温かくなった体や心が、一気に氷のように冷めてゆくのを感じた。


髪の毛も、抱き締める感触も………よく手入れされていて、華奢な百合ちゃんとは、まるでちがうって………?


そういう意味………だよね。

ひどい………。

さすがのわたしも………ショックだった。


それなら、こんなことしないでよ。


百合ちゃんがいるくせに、嫌いな幼なじみにこんなことしないでよ………。


わたしは涙がこぼれてしまう前に、逃げるようにベランダから遥斗の部屋を、あとにした………。

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