イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

帰省する田舎があるわけでもなく、旅行に出かけることもなかったため、今までは同じ窓口係の鈴木さんの休みとかぶらないように夏季休暇を取得してきた。けれど今年は彼女の都合に合わせてばかりもいられない。

「なに?」と首を傾げる鈴木さんに本題を切り出す。

「八月の第三週に夏休みをもらってもいいですか?」

当然の権利である夏季休暇を取得するだけなのに、先輩に気を使わなければならないことがわずらわしい。でも朝陽との北海道旅行は、なにがなんでも実現させたい。

どうか鈴木さんと休みが重なりませんように、と心の中で祈ること三秒。彼女の口から大きなため息がこぼれ落ちた。

「私もその週にシンガポールに行くのよ。もう手続きも済んでいるの。悪いけど夏休みはほかの週にしてちょうだい」

鈴木さんの不機嫌な声が、営業室を出た先の廊下に響き渡る。

八月の第三週に北海道旅行の予定を立てたのは、法人担当の朝陽の都合に合わせたから。

八月十一日の山の日の祝日からお盆休みとなる企業が多い。そのため朝陽の夏季休暇も八月の第三週とすでに決定済みなのだ。

取引先の休みに合わせるように組まれた朝陽の夏季休暇は、絶対にずらすことはできない。それなら私が八月の第三週の休みをもぎとるしかない。

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