イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

「朝陽」

通路から出て遠慮気味に声をかければ、朝陽が弾かれるように顔を上げる。

「穂香? もしかして今の話……」

「うん。全部聞いちゃった。ごめんね」

「マジか……」

朝陽は私から視線を逸らすと前髪をクシャリと掻き上げた。その横顔に見える耳は、リンゴのように真っ赤に染まっている。

こんなに動揺する朝陽も珍しい。

私という彼女がいるにもかかわらず、もしかして木村さんに告白されて舞い上がっているとか?

足を進めて距離を縮めると、朝陽の顔をじっと見つめた。

二重の丸い瞳と通った鼻筋。肌はうらやましいほど、きめ細やかだ。

真相をたしかめるために朝陽の様子を探るつもりだったのに、整った顔立ちに見惚れてしまった。すると階段を下りてくる足音が通路に響き渡る。

ひょっとしたら、着替えを済ませた木村さんかもしれない。

私と朝陽は同期。いざとなったら同期会の相談をしていたと言い訳すればいい。

けれど、火のないところに煙は立たない。ふたりで一緒にいるところを見られるのは、できるだけ避けたい。

ど、どうしよう……。

私だけでも営業室に戻ったほうがいい?

落ち着きなく右往左往していていると、私の名前を小さく呼んだ朝陽に手首を掴まれた。

「穂香、こっち」

「あ、うん」

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