イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

「木村さん、ありがとうございます。でも俺、結婚を前提につき合っている彼女がいるんです」

朝陽が言う『結婚を前提につき合っている彼女』って、私のことだよね?

ふたりの会話を盗み聞きしていることに罪悪感を抱きつつも、朝陽が私のことを木村さんにきちんと説明してくれたのがうれしいと思ってしまう。

「そっか。カッコいい安藤くんに彼女がいないわけないよね。でもね、異動したら安藤くんと会えなくなるし、最後に自分の気持ちをきちんと伝えたかったんだ」

「すみません」

私も木村さんも、そして女子行員も朝陽が異動してしまうことを悲しんでいる。

朝陽に異動辞令を出した人事部が憎らしく思えてきた。けれど私がどんなに人事部を恨んでも、朝陽に出された辞令が取り消しになることは絶対にない。

虚しさばかりが募っていく。

「謝らないでよ。じゃあ、安藤くん。大阪支店でもがんばってね」

「はい。がんばります」

会話が終わると同時に聞こえたのは、二階の更衣室に続く階段を駆け上がる木村さんの足音。通路の角からそっと顔を覗かせると、少しうつむいている朝陽の姿が見えた。

忙しい朝陽を呼び止めるのは気が引ける。でも朝陽と話をしたいという欲求を抑えることはできなかった。

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